ドクターズコラム

ハートケア情報委員会のドクターが狭心症・心筋梗塞の治療法など、狭心症・心筋梗塞に関するさまざまな情報をお伝えします。

第2回 家族、友人が心筋梗塞を起こしてしまったら?

東海大学医学部付属病院教授 伊苅 裕二

●心筋梗塞だけでなく、狭心症などのケースでも、救急車を呼ぶべきでしょうか。

東海大学医学部付属病院教授 伊苅 裕二 狭心症は動いたときだけ苦しく、休めば治りますので、患者さんも、ご家族も救急車で来る病気だとは思わないようですし、救急車で来られることは、まずありません。実際、救急車を使う必要はほとんどないと思います。 
 ただ、心筋梗塞は一旦起きてしまうと、放っておいて治るような症状ではありません。この心筋梗塞が発症した場合は、一般的な患者さんの状況を考えてもご本人や、周りにいるご家族の方など誰が見ても救急車で病院に行くべきだと感じるはずです。
 実は、一番注意すべきは不安定狭心症です。不安定狭心症とは、①発病して間もない(1カ月程度)狭心症②発作が長引くようになったり、強くなったりしてきた狭心症③安静時に起こる、またはごく軽い作業で発作が起こる狭心症のことをいいます。「発作の頻度が増えてきた」などと自覚はできますが、休めば治るので、本人もご家族もあまりその重大さを認識せずに、遠慮して救急車を呼ばないことが多いようです。本人のすぐそばに医師がいて「これは危
ないから、救急車を呼ぶべきだ」という場合以外では、救急車を使用することは少ないのが現状
です。
 しかし、不安定狭心症は「救急車を使うべき疾患」に当たります。これはぜひ心に留めておいてください。不安定狭心症と心筋梗塞を合わせて「急性冠症候群」と呼ばれていますが、不安定狭心症と心筋梗塞の違いは、心筋が壊死(心臓の筋肉が死んでしまい、その機能を失ってしまう状態)しているかどうかの差によるものだけなのです。不安定狭心症は、悪化し始めてから1カ月以内に心筋梗塞に移行する危険性が極めて高い疾患ですので、救急車を使うべきでしょう。
 救急車なら自動体外式除細動器(AED)*による除細動や酸素吸入などの応急処置が受けられます。何より救急車は、ほかの交通手段よりも圧倒的に早く病院に着くことができます。1秒でも早いことで、救命率は格段に上がるのです。


※*心停止には、完全に心臓が止まってしまっている状態の心停止と、心臓が小刻みに震えている状態の心室細動、脈のない心室頻拍などがあります。心室細動を起したら、心臓に電気ショックを与えて心臓の震えを止めなくてはなりません。心臓に電気を流して震えを取り除くことを除細動、この電気を流す装置を自動体外式除細動器(AED)といいます。

 
●家族や知人が心筋梗塞を起こした場合の応急処置について、教えてください。

 まず最初することは119番で救急車を呼ぶことです。次に心肺蘇生を行います。もし身近に、先ほどお話しした自動体外式除細動器(AED)があれば、それを使って除細動を行います。AEDは、最近では空港やホテルなど公共の施設に整備され始めています。AEDによる除細動後、救急車で病院での治療にたどり着くというのが大きな流れです。
 まず居合わせた人は本人に意識があるかの確認をします。意識がない状態なら、すぐに救急車を呼びます。次に呼吸と脈の確認をしますが、脈は腕ではほとんど振れなくなっていますので、
頸動脈(首の左右両側にある血管)でとるといいでしょう。呼吸をしていない場合は、マウス・トゥ・マウスの人工呼吸を2回行います。あごを上げて舌のつけねを開かせ、気道を確保してから行います。この人工呼吸で息を吹き返すことが結構多いので、この時点で呼吸と脈を再度確認してください。そこで脈が振れていなければ、心臓マッサージをします。心臓マッサージは以下のような手順で行います。
① 患者さんを固い床面の上にあおむけに寝かせます。
② 救助者は、傷病者の片側、胸のあたりに膝をつきます。
③ 胸部の一番下の肋骨を人差指と中指の2本の指で触れます。
④ そのまま2本の指を肋骨の縁に沿って胸の真ん中まで、すべるように移動させます。
⑤ 胸骨の真ん中のヤマ形の頂点のところで指を止め、それに並べるように、片方の手の付け根を置きます。置かれた手の付け根の位置が圧迫する部分になります。
⑥ 両ひじをのばし、脊柱に向かって垂直に体重をかけて、胸骨を3.5~5cm(成人の場合)押し下げます。
⑦ 押し下げたら、手を骨から離さずに、すみやかに力をゆるめます。この動作を1分間に100回の速さのリズムで行います。

 心臓マッサージは、相当強くしても問題ありません。現在は心臓マッサージ15回、呼吸2回を交互に行うのが手順となっていますが、回数不足が指摘されていて近い将来心臓マッサージ30回、呼吸2回という手順に変わる動きがあります。
 AEDは完全に心臓が止まっている時には、有効ではありません。そのような時は、まず心臓マッサージで心臓を動かしてから、心室細動に対して除細動を行います。ただ心筋梗塞で倒れた場合はほとんど心室細動の状態ですので、除細動器が有効であることが多いです。AEDは心臓を挟むように胸の2箇所(左の胸部と右のわき腹)にシールを貼り、スイッチを入れるだけですから、説明書通りに使用すれば、誰にとっても簡単な操作です。装置が自動的に診断・作動し、必要がなければ「摘要ありません」と表示されし、自動的に停止します。ですので、AEDをかけたからといって、リスクになることはありません。
 突然の心停止から1分ごとに、生存率は7~10%ずつ減少していくことが報告されています。10分経つと生存の可能性は、ほぼゼロになってしまいます。もし隣にいる人が突然倒れたら、上記の流れにそって応急処置をしながら、救急車を待っていただきたいと思います。

 

●兆候なくいきなり発症するケースもあるのですね。

 心筋梗塞の約4割は、いきなり発症します。除々に狭心症が進行し、血管が詰まってくる場合は、狭心症の段階で治療することができるのですが、それほど血管は狭くなかったのに、突然詰まる人もいます。これが兆候なく発症するケースです。まったく症状がないのに、ある日突然、心筋梗塞になることがあるのです。動脈硬化では血管が狭くなるだけでなく、血栓ができやすい性質になるなどの“質的な変化”も起きています。この血管の質が悪くなった場合は、狭窄(血管が細くなる状態)があまりなくても心筋梗塞になりえますし、血管の質の悪くない場合は心筋梗塞になりづらいです。しかし、質が悪くなると、それほど血管が細くなっていなくても血栓ができて詰まることがあります。これが突然起こる心筋梗塞です。
 これらの人たちが何か特別なリスク要因を抱えていたかどうかについては、よく分かっておらず、このような突然起きる心筋梗塞を予測することは、現在まだできていません。これは、現代医学最大の課題のひとつです。
 心筋梗塞を予測するためには、「血管の壁の薄さ、柔らかさ、いつ裂けるか」などもポイントになります。「薄ければ裂けるか」というと、それも証明されていません。薄くても丈夫な場合があり、厚くてももろい場合もあるでしょう。血管は、構造は簡単ですが、奥が深いものです。
 研究が進まない要因の一つに「霊長類しか動脈硬化にならない」ということがあります。遺伝子操作によりマウスやウサギで、無理やり動脈硬化をつくる実験も進められていますが、基本的には心筋梗塞で死んでしまう動物はいないのです。ヒトの症例で研究を進めるしか方法はありません。世界中の研究者が何とか予測できないかということで研究に取り組んでいるところです。

 

東海大学医学部付属病院教授 伊苅 裕二
【プロフィール】
名古屋大学医学部卒業。
東京大学医学部にて医学博士取得。
三井記念病院、ワシントン大学、再び三井記念病院勤務を経た後、
現在、東海大学医学部付属病院(神奈川県伊勢原市)教授。
循環器内科学、心血管インターベンション、血管生物学を専門とし、
数々の論文を執筆。カテーテル等の医療機器の開発にも従事。

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