第3回 最近の患者さんの傾向
埼玉県川越市 平成クリニック理事長 高山 泰雄
●虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)の患者さんは男性では、30歳代から高齢者の方まで年齢層が広がってきているようですが。 私が医学部を卒業した当時は、虚血性心疾患といえば、60歳以上の高齢の方がほとんどでしたが、現在では若年層の方も多くなりました。30歳代、40歳代の若い患者さんをみても驚かないようになりました。
原因は、食生活が根本にあると考えられます。今の若い人たちは、生まれたときから豊かな食生活に恵まれて育っています。同時に、食生活の欧米化(肉食化、外食化)が虚血性心疾患の発症を促進していることは否めません。その分、従来よりも20~30年も早く、発症しているのではないでしょうか。
●食事や生活習慣では、個人によっても大きな開きがでてくるということですか。
一般的にあまり知られていませんが、脳の血管では、胎生6ヶ月の時点から、特に、血管の分岐する部分で、動脈硬化の初期の所見と考えられる細胞増殖が見られるという報告もあります。同様なことが心臓の血管にも出ている可能性もあります。加齢によって一方的に悪くなることを考えると、遺伝的な要素があるにせよ、その人の生活習慣によっても、結果は大きく異なってくると思われます。つまり、動脈硬化進行のスピードをどのように遅くするかということに、最も関心を払うべきでしょう。
戦前においては、麦や大豆といったコレステロールの低い食物を主に摂取してきた日本人は、今日、食生活の欧米化により、その伝統的な食文化に変化が起こっています。最近では、30歳代でも虚血性心疾患を発症する人が増えていますが、この食事等の生活習慣と「発症までのスピード」の関係を、日本は戦後50年以上かけて、証明してきたともいえるわけです。このスピードは恐らく、世界のどの国も経験したことのないものだと思われます。さらに、それが遺伝的な要素(一親等の家族における虚血性心疾患の発症が、男性55歳以下、女性65歳以下の場合は遺伝的な冠危険因子)となった場合、今度はそれを直していくのに、とても長い年月がかかることになります。
●虚血性心疾患を治療し、いったん治っても、他の部分にまた狭窄が出てくるというようなことはあるのですか。
そのまま同じような生活習慣を送っていれば、またどこかに出てくる可能性はあります。若い患者さんに、「人生はまだまだ30~40年以上もあるのですから、その間できるだけ節制し、タバコも止めたほうが良いのでは」と忠告しても、なかなか聞き入れてくれません。せっかく適切な治療を受けて、助かった命だというのにも関わらず、です。
この背景の一つとして、皮肉なことに、治療方法の進歩により、あまり辛い思いをしなくても病気が治ってしまうということが影響しているようです。特に、合併症のない狭心症では、冠動脈インターベンション(PCI)により、風邪よりも早く治療ができる場合もあります。日帰り治療や翌日退院もあるくらいで「狭心症は恐ろしい」というイメージが薄れてきているようです。もし、重篤な合併症によって七転八倒して苦しんだ人なら、「あんな思いをするぐらいだったら何でもする」と考えるに違いないのですが、今日の進んだ医療では、実感として「大変だった」という印象が本人にはあまり残らないのでしょう。ですから「何だ、簡単だなあ、こんなものは。」などと思いながら、退院していく人も確かにいるのです。
しかしながら、この疾患がもつ深刻さを理解いただく必要はあります。なぜなら、命に関わる疾患であること、そして、生活習慣を見直さなければ、再発が起きる可能性があるからです。このことをぜひ忘れないで下さい。
●そのような患者さんには、どのような傾向がありますか。
若年層では、自分自身の体に対して、差し迫った気持ちを持っていない方が多いようです。冷蔵庫の前に座り、朝起きてみるとアイスクリームの空き箱が山になっているとか、アルバイト先から
あまった食品を全部持ち帰って食べてしまうといった生活が続き、さらに運動不足も加わると、“肥満”という結果になります。最近、肥満だけで、高血圧、心肥大、心機能低下、冠動脈硬化、不整脈なども出現するようになるという報告もあります。さらに、他の冠危険因子が加われば、結果は明らかですね。
一方、食生活の見直しや、運動を心がけるなど、生活習慣を改めることで、血糖値、コレステ
ロール値や血圧が改善され、薬の服用が最小限になり、場合によっては中止できる方も多く見ら
れます。
このように、生活習慣を改善することで、虚血性心疾患のもととなる、冠危険因子を著しく減少することもできるのです。最初は難しいかもしれませんが、慣れてしまえば、またそれも良い習慣となりますので、皆さんにはぜひ挑戦していただきたいですね。

【プロフィール】
群馬大学医学部卒業。
群馬大学医学部付属病院第二内科、同大学院医学研究科、東京
女子医大心臓血圧研究所内科、立正佼成会付属佼成病院麻酔科、
榊原記念病院内科、米・スタンフォード大学病院循環器内科留学を
経て、1989年、医療法人社団平成クリニックを開設。
循環器疾患を専門に地域医療に従事。