ドクターズコラム

ハートケア情報委員会のドクターが狭心症・心筋梗塞の治療法など、狭心症・心筋梗塞に関するさまざまな情報をお伝えします。

第5回 米国と日本を比較、狭心症・心筋梗塞の予防と対処

東海大学医学部付属病院教授 伊苅 裕二

●最近の傾向として、若い人でも発症するケースがあるといわれていますが。


東海大学医学部付属病院教授 伊苅 裕二 戦後から現在にいたるまで、日本では生活習慣も含めた様々な生活環境が変わってきましたが、食生活は特に大きく変わりました。私が医師になった20年前、戦前生まれの当時の高齢者は、「めざしと納豆」というような、質素な食事を普通にされてきた方たちでした。このような食生活が当たり前であった時代では、30歳代の心筋梗塞というと「珍しい」という印象でした。しかし現在の30歳代、40歳代の方たちで、以前のような食事を普段される方はほとんどおらず、ハンバーグやステーキなど、欧米人に近い食事形態になってきています。このような食生活に加え、少し太っていたり、喫煙の習慣があったりすると30歳代でも狭心症や心筋梗塞を発症します。実際、今ではごく普通に30歳代の患者さんがおられます。若年層で原因となっているのは、喫煙、肥満、運動不足で、これらのうち一つでも該当するような方は、将来心臓病で命を落とす可能性が高くなります。これを防ぐためには、20歳代から気を付ける必要があります。

 
●若い方は心臓病になるなんてことを考えてもいないのでしょうね。

 年齢を重ねるにつれ、血管は老化してきますが、その進行度は人によって大きく異なります。健康的な生活をしている人は、老化が緩やかですので、病気になる状態に到達するのは、70歳~80歳になってからですが、不健康な生活を送っている人は30歳代で到達してしまいます。
 米国では日本の7倍くらいの方が冠動脈疾患にかかりますので、親戚一同が集まると、大抵そのうち1人はバイパス手術の経験者がいたりして、心臓病のことは非常によく知られています。しかしながら、米国においては、日本で一般的な脳卒中についてはあまり知られていないようです。一方、日本では、長年、脳卒中が死因の多くとされ、身内に倒れた人がいることも多く、どういう病気か比較的皆さんよくご存じですが、心臓病のことはあまり理解されていません。しかし、もうすでに日本人の死因の第2位は心臓病であり、日本人とて、狭心症や心筋梗塞について「知らない」「身内に誰もいない」「見たことがない」と、悠長なことをいっている場合ではありません。また、急速に若年化が進行しています。この認識だけは、しっかりと持っていていただきたいと思います。
 狭心症や心筋梗塞の場合、女性の患者さんは大抵50歳以上ですが、男性では働き盛りの30歳代~50歳代の方が、数多く救急車で搬送されてきます。この世代の方は一家を支えている年代です。「あなただけの命ではない」ということを認識してください。ご自身の健康を過信してはいけません。症状がなくても、動脈硬化は起こっていることが多々あるのです。何より生活習慣を改めることが、病気の進行を抑えることになるので、健康的な生活を心がけて欲しいですね。

 

●海外と日本では、予防法などで違いはあるのですか。

 「食事、禁煙、運動」という予防は、どこの国でも同じです。米国では、脂肪を減らすということが非常に強くいわれています。“No Fat”、“Low Fat”などのラベルが、どの食品にも貼ってあり、
この考え方は、一般の方にも染みこんでいます。そのおかげか、米国では心筋梗塞が減ってきています。
 和食が健康的であることは、米国でも認知されているところですが、夕食としてレストランなどで食べると、25ドルを超えますので、高価な食事です。スーパーマーケットで一番安い食材は牛肉、次が豚、鶏、そして一番高いのが魚でした。魚といっても、サーモンステーキです。鯵の開きなどはなかなか手に入りません。まるで、日本と反対ですね。テンダロインステーキよりも、鯵の開きの方が高いのですから。だからこそ、“No Fat”、“Low Fat”ということになるのかも知れませんね(笑)。
 喫煙については、健康管理という面に加え、人前で煙草を吸うと知性を疑われかねない風潮があるため、喫煙者たちは、人知れず場所を選んで喫煙しているようです。実際、就職試験の会場で喫煙などしようものなら間違いなく落とされるということです。
 程度の違いこそあれ、基本的に生活習慣病について気をつけるべきことは万国共通ですね。

 

●米国では一般の人の救命に対する意識が高いと聞いたのですが

 米国シアトルでは、授業で「もしお父さんが倒れたら、助けるためにどうするか」と、人工呼吸や心臓マッサージを子供たちに体験させています。私がシアトルに住んでいたときのことですが、家族と子供服を買いにデパートへ出かけたところ、売り場に「子ども用の心肺蘇生(CPR)を勉強しましょう」と書かれた貼り紙がありました。ボランティアなのかどうかはわかりませんが、売り場の女性が服を販売することよりも、この講習会への参加を熱心に勧めていたことは印象的です。このような
2~3時間の心肺蘇生の講習会は、シアトルでは頻繁に開かれていましたので、市民は皆、心肺蘇生について知っています。
 また、私の滞在当時、バスが陸橋から転落するという事故がありました。そのとき、事故の現場にすばやく市民が集まってきて、驚くべきことに、そこで皆が心肺蘇生を始めていたのです。映像をテレビで見たときは「さすが」だと感心しましたね。
 現在日本では、BLS(一次救命処置=Basic Life Support)研修を、看護師や救急救命士、看護学生などの関係者に行っています。人形を使って人工呼吸や心臓マッサージなどを行う訓練ですが、内容としては一般の方々が学ぶべきものです。もし機会があれば、ぜひ皆さんも受けられるべきでしょう。狭心症や心筋梗塞への救命措置の知識は、いつ必要になるか、いつ役に立つか分かりませんので準備しておくことが大切です。また、知識を持っている、ということが人々の救命につながることをぜひ認識してください。

 

東海大学医学部付属病院教授 伊苅 裕二
【プロフィール】
名古屋大学医学部卒業。
東京大学医学部にて医学博士取得。
三井記念病院、ワシントン大学、再び三井記念病院勤務を経た後、
現在、東海大学医学部付属病院(神奈川県伊勢原市)教授。
循環器内科学、心血管インターベンション、血管生物学を専門とし、
数々の論文を執筆。カテーテル等の医療機器の開発にも従事。

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