ドクターズコラム

ハートケア情報委員会のドクターが狭心症・心筋梗塞の治療法など、狭心症・心筋梗塞に関するさまざまな情報をお伝えします。

第8回 虚血性心疾患の治療後のクオリティ・オブ・ライフについて

東海大学医学部付属病院教授 伊苅 裕二


●冠動脈インターベンション後のクオリティ・オブ・ライフはどのようになるのでしょうか。



東海大学医学部付属病院教授 伊苅 裕二 狭心症や心筋梗塞などで倒れ、冠動脈インターベンションで治療すると、回復した後のクオリティ・オブ・ライフは大きく改善されることが多いです。「治療前よりも長い距離を歩けるようになりました」と感謝されることもよくありますよ。狭心症・心筋梗塞などの虚血性心疾患の場合、きちんと心血管の狭窄が治れば日常生活もずいぶんと過ごしやすくなります。虚血とは、血液が十分に心臓の血管に行き渡っていないことですので、それを回復させることで、確実に症状が改善されます。
 若い方の場合は、普段の生活で歩くことが多いので、治療後の特別なリハビリテーションが必要ではないこともあります。一方で、ご高齢の方の場合は、長く患っていたことにより下半身の筋肉が落ちてしまい、心臓が治ってもしばらく歩けないことがあります。この場合はリハビリテーションにより、足腰の筋力を回復させることで、クオリティ・オブ・ライフは改善します。身体を動かすことでで善玉コレステロールが増えたり、糖尿病の改善につながったりするということもあります。心筋梗塞の場合は、冠動脈インターベンション後の最初の1カ月は安静にしていただきます。それから運動をし始めることになりますが、動けるようになるとご本人も「治った」と実感されるようです。

 
●狭心症・心筋梗塞における、総合病院などの急性期病院と診療所との役割分担は、どのようになっていくのでしょうか。

 特定機能病院は先端医療に特化していくようになると思われます。循環器領域では、冠動脈疾患の患者さんへの冠動脈インターベンションや心臓バイパス手術などを中心にやっていくことになるでしょう。当院でも開業医の先生から「どうも狭心症のようだが」と患者さんを紹介され、冠動脈インターベンションなどの治療をします。
 また、治療後の協力も大切です。特に、ステントを入れた場合には血栓(血のかたまり)ができるのを防ぐため、お薬を飲まなければなりません。薬剤溶出ステントを使用した場合も同様で、主治医の指示どおりの服薬が重要です。具体的には塩酸チクロピジンとアスピリンという二種類の薬です。塩酸チクロピジンは、白血球や血小板が減少したり、重症の肝機能障害などの副作用が稀に発生することが報告されています。この副作用の事前防止のため、服薬開始2ヶ月間は2週間おきに、血液検査をする必要があります。以前は当院に通院してもらっていたのですが、最近ではこのアフターケアの診療を開業医の先生方にやっていただいています。つまり、患者さんには退院2週間後に1回、当院に来ていただくだけで、後は近隣の開業医さんに通院して頂くことになるのです。
 また、心臓病に関する最新情報を提供するために、医師会の先生方と当院の医師とで会合を開いています。会合でお願いしていることの一つに、狭心症における問診の重要性があります。それは、問診で気になる患者さんは「心電図に異常がなくても、どうぞ紹介してください」ということです。開業医の先生の中には、「心電図に問題がないのに大学病院に紹介していいのか」と抵抗を感じる方もいるようですが、症状が典型的な場合は「心電図などいりません」「とにかく送ってください」というお願いをしています。残念ながら、狭心症は、自ら進んで患者さんが来院する病気ではありません。診療所での診察や健診時に「少しおかしいから診てもらった方が良い」と言われて来る方がほとんどなのです。疾病の発見とアフターフォローの両面において、かかりつけの開業医さんの果たす役割は大変大きいと感じます。

 

●冠動脈インターベンションで、カテーテルを挿入する場所はいくつかあるようですが。

 まず、手首の橈骨(とうこつ)動脈から、カテーテルを挿入する方法は、より患者さんにとって身体的な負担の少ない治療です。具体的には止血がしやすく、腕からの挿入であるため、治療後に手首をベルトで締めるだけで、患者さんは歩いて病室まで帰れます。また、出血による合併症が少ないということもあります。一方、足の付け根の大腿骨動脈から入れる場合は、手首よりも血管が太いため、カテーテルの挿入がしやすく、治療時のカテーテルの安定が保たれるため治療がやりやすいということもあります。ただし、止血に20分、また、術後6時間程度、その部分を縛って安静にして頂く必要があります。実際にカテーテルを手首から挿入するか、足の付け根から入れるかなどの判断は術者が病状などを見て判断します。例えば、米国などでは、まだ足からの場合がほとんどですが、アジアや欧州では橈骨から入れるケースが増えてきています。一般的に米国の方が医療は進歩していると言われていますが、患者さんの負担を減らす技術という点では、日本も進んでいるのですよ。

 

東海大学医学部付属病院教授 伊苅 裕二
【プロフィール】
名古屋大学医学部卒業。
東京大学医学部にて医学博士取得。
三井記念病院、ワシントン大学、再び三井記念病院勤務を経た後、
現在、東海大学医学部付属病院(神奈川県伊勢原市)教授。
循環器内科学、心血管インターベンション、血管生物学を専門とし、
数々の論文を執筆。カテーテル等の医療機器の開発にも従事。

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