第20回 治療後の暮らしについて
東海大学医学部付属病院教授 伊苅 裕二
●心臓病の治療をした後、しなければいけないことはありますか?心臓リハビリについても教えていただきたいです。
動脈硬化で心筋梗塞や狭心症になったということはいままでの生活習慣は「落第だった」ということです。ですので、その治療をきっかけに、まずは生活習慣を「合格点」にする努力が必要です。タバコを吸っていた人は禁煙しなければなりませんし、運動不足だった人は運動をはじめることが必要でしょう。メタボリックだった人はやせなければなりませんし、高血圧や糖尿病など、それぞれ治療が必要です。
心臓リハビリは通常、狭心症ではなく心筋梗塞の後になされるものです。一昔前までは、心臓病の人はじっとしているのが良い、運動は避けるべきだ、というのが常識でした。しかし、今は運動したほうが良いとされており、実際、運動の習慣がある人のほうが長生きである上、生活の質も高いのです。心臓リハビリは医療機関が積極的に関わって運動させるものであり、医療施設での心臓リハビリは、ベルトコンベアのようなトレッドミルや自転車をこぐエルゴメーターなどが、それぞれ30分くらい実施されます。医療施設で実施される心臓リハビリだけでなく、ご自身で運動ができる方はどんどんやったほうがよいでしょう。
●治療後も薬を飲むなど、病気と長くつきあわなくてはならないのでしょうか?
心臓病にかかったということは、今までの生活は「落第」でありその生活はダメであったということを改めて認識して頂かなくてはなりません。せっかく治療をしても、生活を改善しなければ、また心臓病になります。一度、狭心症や心筋梗塞にかかったことのある人は、同年代の人と比べて80~100倍くらい再発率が高いといわれ、生活を改善しないと、このリスクは更に高まるでしょう。次は命を落とすかもしれません。心から反省し、生活を改める必要があります。その際に、個人の努力だけでは及ばない部分については薬の力を借りることになります。例えば、高脂血症にはコレステロールを下げる非常に良い薬があります。再発を防ぐには、心臓病の原因を少しでも多く取り除いていくことです。狭心症になったという過去を塗り替えることはできません。病気とは長く付き合っていかねばならないのです。そういうと少し気分が重くなる方もいらっしゃるかもしれませんが、この病気をしたからこそ、ご自身の健康を気遣いより健康的な生活を送ることができる、という風に考えてみてはいかがでしょうか。生活に気を配ることで、元気に長生きできる可能性も広がっていくことでしょう。
尚、ステント治療をされた方は、二次予防としての抗血小板療法が必要です。これはステントという異物に反応することによって生じる血栓を防ぐことが目的ですが、実は、一度、心臓病になった人は、ステントの中だけでなく別の場所も詰まりやすくなるのです。その際に、抗血小板療法をきちんとしている人は、狭心症でとどまり、心筋梗塞になる確立がきわめて低く、命に関わることが少なくなります。ですので、血栓を防ぐお薬は、可能な限り、長く飲む方がよいでしょう。ステント治療を受けた患者さんは、アスピリンは生涯に渡って飲むことが推奨されていますが、アスピリンは胃を悪くする方がいらっしゃいます。その場合は、胃薬と一緒に飲むとよいでしょう。再発率は、これらの薬を飲んでいるかどうかで明らかに違います。アスピリンは非常に安いお薬で、費用も1ヶ月で180円、3割負担だと50円です。これで長生きできるとなれば、飲まない手はありませんね。
●服薬の際に、食べ物で注意すべきものはありますか。また、心臓の治療をした後に食べてはいけないものなどありますか?
カルシウム拮抗薬を飲むときは、グレープフルーツを食べてはいけません。グレープフルーツに含まれる成分が腸の中で薬の働きを抑えてしまうのです。ただし、一緒に食べてはいけないということですので、時間をあければ食べることもできます。また、ワーファリンという薬を飲んでいるときは、納豆を食べてはいけません。薬が効かなくなってしまうのです。ワーファリンとは、心房細動の人の脳梗塞発作を防ぐ薬ですが、ワーファリンはよくアスピリンと間違えられてしまいます。アスピリンと納豆の組み合わせは何ら問題ありませんので、むしろ積極的に食べましょう。いずれにしても、薬を飲んでいるときは、食べるものについて制限がないか医師に確認しましょう。
それ以外に、食事についての制限は特にありませんが、糖尿病のある人は、指導が入りますのでカロリー制限に従わなければなりません。また、高脂血症の人は肉などコレステロールの高いものを避ける、高血圧の人は塩分を控えお酒を飲み過ぎないようにするなど、それぞれに注意が必要でしょう。落第点の原因は自らも考えて改善する必要があります。
●昔からずっとスポーツをしてきたのですが、心臓病になったら、もうスポーツを楽しむことはできないのでしょうか?
スポーツはぜひ積極的にやってください。私の患者さんにも、狭心症の治療後に、テニスを再開して国体に出ている人もいます。また、心臓病になる前はたいへんな肥満体質であったのに、治療後にボディビルダーになった人もいます。タイプはいろいろですが、心臓病になったことがきっかけで運動を始めた人も多くいます。今は、カテーテル治療が比較的簡単に受けられるので、ちょっと動いたら胸が苦しいなどという場合は、完全に治療をして、今までになかったようなレベルの高い運動を積極的に実施して、元気に長生きできるのではないでしょうか。
【プロフィール】
名古屋大学医学部卒業。
東京大学医学部にて医学博士取得。
三井記念病院、ワシントン大学、再び三井記念病院勤務を経た後、
現在、東海大学医学部付属病院(神奈川県伊勢原市)教授。
循環器内科学、心血管インターベンション、血管生物学を専門とし、
数々の論文を執筆。カテーテル等の医療機器の開発にも従事。