ドクターズコラム

ハートケア情報委員会のドクターが狭心症・心筋梗塞の治療法など、狭心症・心筋梗塞に関するさまざまな情報をお伝えします。

第26回 運動と体内の塩分と水分の関係は?

東海大学医学部付属病院教授 伊苅 裕二

●日頃はウォーキングなど、一日一度は運動をするように心がけていますが、雨天の多いこの時期、陥りがちな運動不足を回避する良い方法はありますか?

東海大学医学部付属病院教授 伊苅 裕二 確かにこの季節は運動したい気持があっても、天候が悪く難しいことも多いかと思います。ですが、ちょっとした心がけで、意外と日常生活で運動はできるものですよ。
 たとえば、いつもならエレベーターやエスカレーターを使用するところを、階段をつかって移動してみるとか、一つ手前のバス停で降りて歩いてみるとか、運動それ自体を目的にして、外に出るというよりも、動いているついでに、運動をしてしまうことです。
 家事も結構体力を使うよい運動です。お風呂の掃除や床磨きなど、全身を使うものはよい運動になるでしょう。雨が続き、外に出にくい時期ですから、逆に家事に力をいれることで、お家もきれいになり一石二鳥ということでいかがでしょうか?

●季節の変わり目か、なんとなくだるい気がするのですが、湿度と心臓病は関係ありますか?

 気温と心臓病についての関係は有名です。温かいところから急に寒いところに出ると、自律神経の影響から発作が起きやすくなります。
 ただ、湿度と心臓病の関係について、確立されたものはありません。冬の時期には、太平洋側が乾燥し、日本海側が湿った空気が流れ込みますが、太平洋側で心臓病が少なく日本海側で多い、あるいは、太平洋側で多く日本海側で多いといった報告はないように思われます。現段階でははっきりとしたことが分からないというのが実情でしょう。
 とはいえ、気温と同様に、湿度も多少は自律神経に影響しているということはいえるでしょう。今後、このあたりの研究が進むと興味深いですね。

●水を飲みすぎるとむくむような感じがします。どれくらいが適切な量なのでしょうか?

 よく、心臓病の患者さんから「むくむから水はあまり飲まない方がいいですよね?」とご質問を受けます。これは大きな誤解です。
 腎機能が正常な場合、過剰な水分は必ず尿として排出されます。つまり、水を飲んだからといって、むくんだり、太ったりすることはないということです。では、むくみの原因は何かというと、実は塩分。塩を摂りすぎるからむくむのです。
 これは、私の学生時代の経験なのですが、体内の塩分について興味深い実験をしました。学生の間では「地獄の生理学実習」と呼ばれていたのですが、それぞれの学生が体重の2%の水を飲むのです。一つのグループは蒸留水を、もう一つのグループは0.9%の生理食塩水を30分で1リットル飲み続け、それぞれの排尿の量を比べるというものです。
 そうすると、蒸留水組は30分もしないうちにトイレに駆け込むことになりましたが、食塩水組は、全然トイレに行きたくならないのです。つまり、食塩水が体液になって体に溜まっていっているということなのです。ちなみに、食塩水組は、2日くらいかかってようやく体重が元に戻りました。また、塩分の取りすぎは体液が増えるため、体重だけでなく血圧も上がります。
 この実験での経験からもお分かりいただけると思いますが、心臓病の患者さんでも腎機能が正常な場合は、気にせず水を飲んで問題ありません。運動強度にもよりますが、心臓病でなくとも血圧が高めな方などは、汗で体重が1kg以上減るような運動をしない限り、水分補給はスポーツドリンクではなく水で十分です。スポーツドリンクには塩分が含まれているため、飲みすぎるとかえってむくんで、せっかくの運動もプラスマイナスゼロ、ということになってしまいます。日本人の食事は塩分が多めですから、通常の運動をした程度では、体内の塩分低下による"低ナトリウム症"で倒れるということは、ほぼないでしょう。低ナトリウムで倒れるというのは、真夏の炎天下にさらされて、滝のような汗を流しながら何時間も働くような場合に起こるのです。
 尚、これまでお話ししたことは、あくまで腎機能が正常な場合です。腎機能が悪く透析をしている方にはあてはまりません。透析患者さんは、過剰な水の行き場がなくなっている状態ですので、水分や塩分の摂取に関しては、必ず主治医と相談しましょう。


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東海大学医学部付属病院教授 伊苅 裕二
【プロフィール】
名古屋大学医学部卒業。
東京大学医学部にて医学博士取得。
三井記念病院、ワシントン大学、再び三井記念病院勤務を経た後、
現在、東海大学医学部付属病院(神奈川県伊勢原市)教授。
循環器内科学、心血管インターベンション、血管生物学を専門とし、
数々の論文を執筆。カテーテル等の医療機器の開発にも従事。

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