第29回 寝苦しいこの時期 心臓病対策は脱水に気をつけて
東海大学医学部付属病院教授 伊苅 裕二
●残暑が厳しく、十分に寝た感じになりません。クーラーを入れると冷えるのですが、心臓にはどちらがいいのでしょう?
どちらがいいかというと難しい問題ですが、睡眠不足は体力低下をまねきますので、この暑い時期の睡眠には注意が必要です。心臓病に限らず、病気は体力が低下したときに起こりがちです。しっかりした睡眠をとるためには、たとえば、日中少し体を動かして、適度で心地よい疲れを感じた状態をつくり、夜はしっかり眠るなど、規則的な生活のリズムをつくることが非常に重要です。
睡眠中は体温が低下しますから、クーラーをつけっぱなしのまま寝ると、寝つきは良くても、途中で体が冷えてしまい、結果的に朝起きてもだるさが抜けないということにもなりかねません。少し空気が動くだけでも体感温度は随分と変わります。扇風機を、体に直接当てないよう、寝ている方向とは逆に向けて回し、部屋の空気を流してあげるなど、工夫をしてみましょう。
●この時期に、特に気をつけるべきことがあれば教えて下さい。
なんといっても、脱水と熱中症です。混同されて考えられがちですが、脱水症は全身の水分が不足して血圧が維持できない状態のこと、熱中症は熱があがりすぎて生命体が維持できない状態のことをいいます。脱水で熱中症の人が運ばれた際、点滴を打つことで脱水は回復しても、熱が下がらないまま熱中症は改善せず助からないというケースもあります。また、雪山で遭難した人は低体温になっていますが、何も口にしていないので脱水症になっています。この場合は、温めながら脱水症を改善しないといけません。そして、夏の時期に熱中症になる人はほとんどのケースで脱水症にもなっています。
熱中症は、本来心臓病と直接関係はないのですが、夏場の熱中症は生命に関わるような重大な合併症を引き起こすので十分な注意が必要です。日頃、外で運動をすることに慣れていない人は、突然暑いところにいって、“熱中”し過ぎないように注意しましょう。急に体に負担になるようなことはせず、少しずつ慣らしていくことが重要です。ふらふらしたり、少し辛いと感じたりしたら、無理せず涼しいところにいって、冷たいタオルなどで体を冷やしてください。
脱水は熱中症とは違い、心臓病の直接の引き金になります。汗で体の水分が抜けると血液の濃度は高くなります。もしその状態で、狭い血管があれば、詰まりやすくなります。この時期に救急車で運ばれてくる心筋梗塞の方の特徴は、若い人でゴルフなど炎天下での運動中に倒れ、検査をしてみると冠動脈の中でも最も太い血管に血栓がたっぷり詰まっているというケースです。まさに脱水と熱中症がまねいた結果といえます。
夏の運動で心がけることは、とにかく小まめに水分補給をすることです。タイミングについて、運動をする前の方がよい、といわれることもありますが、細胞に行きわたるかどうかという観点からはそうであっても、脱水は体内の絶対的な水分不足ですので、とにかくのどが渇いたら、いつでも飲むことが必須です。
尚、暑くて寝汗をかいても脱水症になるほどの量であることはまれですので、普通に食事が摂れているようであれば、睡眠中の脱水はあまり気にしなくてもよいでしょう。なにはともあれ、規則的な睡眠と食生活が心臓病を防ぐには不可欠ですね。
●気温によって、心臓病の痛みを感じやすい・感じにくいなどということはありますか?
狭心症のケースによっては、多少あるかもしれません。自律神経の影響から、寒いときの方が心臓の血管の全体のトーンや緊張度が上がります。つまり、気温という刺激に対して敏感になりやすいということです。寒さという刺激を受けることで、心臓の全体的なトーンもあがり、心臓の血管はぐっと狭くなります。しかし、これはあくまで安静時狭心症など、冠動脈が痙攣するタイプの狭心症の場合です。労作性狭心症のように動いたときに症状がでるような狭心症の場合は、気温によって痛みを感じやすかったり、感じにくかったりすることはありません。しかし、痛みを感じないからといって、心臓病を顧みない不規則な生活はよいとはいえません。日頃から規則正しい生活を心がけましょう。
■関連リンク:
第26回 運動と体内の塩分と水分の関係は?|ドクターズコラム|ハートケア情報委員会
http://heartinfo.jp/column/article/post_19.php
第27回 心臓病の原因の一つ 血栓の仕組みとは?|ドクターズコラム|ハートケア情報委員会
http://heartinfo.jp/column/article/post_20.php
【プロフィール】
名古屋大学医学部卒業。
東京大学医学部にて医学博士取得。
三井記念病院、ワシントン大学、再び三井記念病院勤務を経た後、
現在、東海大学医学部付属病院(神奈川県伊勢原市)教授。
循環器内科学、心血管インターベンション、血管生物学を専門とし、
数々の論文を執筆。カテーテル等の医療機器の開発にも従事。