ドクターズコラム

ハートケア情報委員会のドクターが狭心症・心筋梗塞の治療法など、狭心症・心筋梗塞に関するさまざまな情報をお伝えします。

第10回 狭心症などの冠動脈疾患の治療について


財団法人心臓血管研究所所長 相澤忠範


●狭心症などの冠動脈疾患の治療にはどのようなものがあるのですか。

財団法人心臓血管研究所所長 相澤忠範 大きく、冠動脈バイパス術と冠動脈インターベンションがありますが、現在では、7割程度が冠動脈インターベンションで行われています。当初は再狭窄という問題があったのですが、薬剤溶出ステントの登場により、それもずいぶんと少なくなりました。
薬剤溶出ステントが登場したとき、私たちは強力な武器を手に入れたと思いました。狭心症・心筋梗塞の治療の歴史は、バルーンの出現を第1期とすると、ステントの出現が第2期です。そして第3期が薬剤溶出ステントです。薬剤溶出ステントとは、治療した箇所がふたたび狭くなる再狭窄を抑制する薬剤を塗布したステントですが、これは再治療率の低下に大きな効果を発揮しました。今まで私たちがステント治療の適用としていた病変であれば、再狭窄を限りなくゼロに近くすることができます。これにより、従来のステントでは、再治療のリスクを考慮した上で、冠動脈インターベンションをあきらめていた病変にも積極的にカテーテル治療を行うことができるようになりました。
 とは言っても、再狭窄はある程度起こってきます。とくに冠動脈の枝分かれした部分に狭窄がある場合や人工透析を受けている方、およびインシュリン治療を受けている重症糖尿病の方は再狭窄を起こす確率が高くなっています。こういう方は外科(バイパス手術)にお任せすることもあります。
薬物療法はコレステロールなどがたまって起こった狭心症の病変部を再び広げて治療するものとは違います。むしろ、1次予防のための療法です。ただし、コレステロールの値が高い方は、治療後の2次予防として薬物療法を継続することが有効です。また、痙攣により起こる冠攣縮性狭心症の予防においては、カルシウム拮抗薬などを用いることで、薬物療法が有効です。

●狭心症などの冠動脈疾患の治療方法はどのように進化しているのでしょうか。

 冠動脈インターベンションでは、体を大きく切ることがないので、患者さんの負担が少なく入院日数が短くてすみます。薬剤溶出ステントの出現で、再治療のリスクも大きく減少しました。同時に、外科もどんどん進化しています。最近の冠動脈の外科手術では、ほとんどの場合、人工心肺を使わずに行います。人工心肺を使わないということは、心臓を止めることなく、動かしたまま外科手術を行うということです。
 私たち循環器内科と外科が連携して取り組んでいるのは、ハイブリッド手術です。これは入院から退院まで1週間ほどで行える低侵襲性バイパス手術です。まずは外科にて開胸せず、脇を4センチ程小さく切り、心臓を動かしたまま、内胸動脈という胸の辺りにある血管と重要な冠動脈(左前下行枝)とをつなぐ手術をします。その理由は、内胸動脈には動脈硬化がまず起こらないからです。そしてその後、残りの狭窄している部分を広げるため、循環器内科にて冠動脈インターベンションを実施します。これにより、バイパス手術と冠動脈インターベンションの長所を互いに生かした治療が行えるのです。

●PCIの入院期間と、治療後のケアについて教えてください。

 当院の場合、冠動脈インターベンションの前日に入院していただき、30分程度の術前説明とインフォームドコンセントを行います。そして翌日冠動脈インターベンションを行います。都合により治療したその日の夕方退院される方もいらっしゃいますが、通常は治療の翌朝帰っていただく、2泊3日です。
 ステント治療を行った後は、塩酸チクロピジンとアスピリンを服用して頂かなければなりません。特に、薬剤溶出ステントにて治療した場合は、塩酸チクロピジンを3カ月以上服用して頂かなければなりません。塩酸チクロピジンには、まれに重篤な副作用が生じることが報告されていますので、肝機能などのチェックのため、2週間に1回、合計で4回程度通院して頂きます。薬剤溶出ステントによって再狭窄は激減しましたが、薬を飲み忘れると血管内に血のかたまりができる血栓症を引き起こす危険性が高まることが報告されています。ステント血栓症は、起こる場所によっては、致命傷になります。そこで、薬の服用の大切さを徹底的に話し理解してもらっています。
 アスピリンは一生飲み続けることをおすすめしています。アスピリンは、遅発性のステント血栓症を予防します。副作用のあるような強い薬ではありませんし、脳血栓、脳梗塞の予防薬でもあります。しかし内視鏡でポリープ切除を行うような場合は、血が止まりにくくなりますのでアスピリンを服用できません。狭心症の治療だけでなく、他の疾患の手術をする可能性がある場合は、よく医師と治療法を相談してください。

●薬を飲むこと以外に日常生活で気をつけなければならないことはあるのでしょうか。

 まず薬剤溶出ステントを入れた方は、脱水に注意しなければなりません。薬剤溶出ステントを使用すると、これまでのステントよりも、ステントを覆う内膜が薄くなるため、血栓ができやすくなることが報告されています。このため血栓の要因となりうる過度の興奮やサウナは避けるべきです。脱水を起こすようなことには十分な注意が必要です。私は、半年間はジョギングなどの激しい運動を禁止しています。夏場以外でのゴルフや早足程度なら問題はありません。
 そして半年経てば、内膜が張ってきて、血管内視鏡で見ても十分厚くなっていることが確認できます。その後はスポーツなどもできるようになります。

●ステントは金属でできていますが、アレルギーなどが起こることはないのでしょうか?

 ステントは、ステンレスなど人体に対して適合性の高い材質で作られていますので、まず心配はありません。これらの金属にアレルギーをお持ちの方に用いることはありません。ただし、やはり、人体にとって異物であることに違いはありません。極めてまれにではありますが、ステントを入れた後、1年後以降に、ステントの中に血のかたまりができるステント血栓症が生じることがあることが報告されています。ですから、本当は何も残らない方がよいのでしょう。
 この根本的な解決策として、どの国のどこの企業でも、治療直後は血管を支えるためにしっかりと固定され、それ以上の支えが必要なくなる半年から1年のタイミングで生体に吸収され、血管から消えてなくなってしまうステントの開発を目指しています。開発にもう少し時間がかかるかも知れませんが、必ず出てくると思います。


財団法人心臓血管研究所所長 相澤忠範
【プロフィール】
福島県立医科大学卒業。東京医科歯科大学医学部付属病院、平塚市民病院循環器内科を経て、1979年から(財)心臓血管研究所付属病院
勤務。2005年より、同研究所所長。
大学卒業以後40年間、心臓カテーテル検査および治療に従事。虚血性心疾患における心臓カテーテル治療、冠動脈インターベンションに造詣が深い。

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