第16回 狭心症と診断されるまで 専門医への相談が一番の近道
財団法人心臓血管研究所所長 相澤忠範
●先生のところに狭心症で病院を訪ねてこられる患者さんにはどんな方がいらっしゃいますか?
朝、出勤時に地下鉄の階段を急ぎ足で上り下りして、これまでは大丈夫だったのに、何となくのどやあごが「きゅっ」としたり、胸の中央部分がしめつけられたりするような感じがするものの、少しじっとしていると治まりそのあと歩いても平気、といった症状を訴える患者さんが多いです。また、体重は増えていないのに、急いで歩くと息切れや息苦しさがでるようになったという、一見、呼吸器の病気のような症状を感じられる患者さんもおられます。これらは、典型的な狭心症の初期症状の例です。
●狭心症であるかどうか、自分ではなかなか分かりにくいようですがどのような症状があれば病院に行けばよいでしょうか?
じっとしていると何もないのに動くと症状が出るという労作性狭心症の場合、人間ドックで行われる心電図を取っても異常はでません。運動負荷心電図や冠動脈CT、心臓核医学検査などを行うことで初めて診断ができるのです。
呼吸器の異常や貧血がないのにも関わらず、息切れが非常に強い場合は、一番大事な左冠動脈の根元が詰まっている場合があります。意外であるのが、重症なものほど"胸が痛くなる症状"ではなく、"なんとなく息苦しく調子がおかしいという症状"がでることがあるということです。
その他、症状の種類として典型的なものは、胸の真ん中の裏側が「ぎゅっ」としめつけられる痛みがある、のどやあごが締め付けられる感じがある、左腕から左肩がだるくしびれる、といったものがあります。また、右冠動脈が詰まっている場合は、胃の辺りが「ぎゅっ」と痛くなり消化器症状と間違うケースがあるため注意が必要です。のど、あご、歯の痛みは狭心症の症状として知られるようになってきましたが、胃痛に狭心症の可能性があることはまだ十分に知られていないようです。消化器に何も異常がない場合は心臓を調べてもらいましょう。
なお、自覚症状がなくても、ご両親に心臓病の方がおられる場合や、コレステロール値が高い場合は、心臓病の健診を受けるべきです。また、女性の場合、家族性の高脂血症、極端な肥満、糖尿病、腎機能が悪く透析を受けているという以外は、50歳くらいまでは狭心症を発症することは稀ですが、閉経後は、急速に狭心症リスクが高まりますので、女性も男性同様、生活習慣に気をつけて、狭心症を予防するよう心掛けてください。また、冠攣縮性(かんれんしゅくせい)狭心症の場合は、朝方寝ているときに胸が締め付けられるような感じがして目が覚める、お酒を飲んだ翌朝に胸に違和感がある、という症状が起こります。中には、日中は何ともないのに朝の出勤時だけ胸が痛むという労作性狭心症に似た症状がでることもあります。この冠攣縮性狭心症は自律神経の活動と関係していると考えられ、ほとんどのケースで朝に起こります。
●疑わしい症状があっても、狭心症と診断されるのが恐く、なんとか市販薬などで治そうとする考えもあるようですが。
自己判断で治療方針を決定してしまうことは非常に危険です。実際に狭心症である場合は、市販薬や生活習慣を改善するだけでは治すことは困難です。気になったらまずは病院にいって診察を受けましょう。よく、チクチクする痛みは狭心症など心臓病の可能性は低いと言われますが、稀にそうであることもあるのです。
現在は治療法も進んでおり、早期に見つけられれば、専門家の指導による生活習慣の改善と少量の薬で狭心症が改善する可能性は十分にあります。まずは、正確に病気かそうでないかの診断をしてもらうことが重要です。最近は効果的な薬もあり、狭心症と診断されたからといって、必ずしも開胸手術やカテーテル治療をするわけでもありません。むしろ、なおざりにすることで病気が進行し、手術やカテーテル治療を受けざるをえない場合もあるのです。
●狭心症は高齢になって発症すると考えてよろしいでしょうか。
特に男性の場合、30代になると安心はできません。急性心筋梗塞になり救急車で運ばれてくることも珍しくありません。実際に現場で治療にあたっていると、この10年程で本当に若い患者さんが増えたなあ、と実感します。
男性の場合、それまでは健康的な生活であったのに、単身で海外赴任を経験し、毎日ファストフード、睡眠不足が続く多忙な毎日、という生活を送った結果、軽い糖尿病になって帰国しその後、狭心症を発症するというケースも見受けます。
これまで日本人に狭心症の方が少なかったのは、人種など遺伝子的なものではなく、むしろ食生活等の生活習慣が非常に大きな要因であったことが、このことからもわかりますね。
●個人的には、長患いせずポックリ逝けるのが理想なのですが、心臓病は苦しむものでしょうか。
いわゆる"ポックリ逝く"というのは、急性心筋梗塞による不整脈死ですね。確かに、不整脈死は、長患いせずご本人は楽で良いかもしれませんが、予知できないため身の回りの整理ができておらず、残されたご家族などは大いに困るでしょう。
また、心筋梗塞を繰り返していると、慢性心不全になります。これは、入退院を繰り返すことになり、その苦しみは肉体的にも精神的にも大きいものです。心臓病は必ずしもポックリではないですし、仮にポックリでも残された方が突然のお別れに悲しみと戸惑いを感じますので、どうぞ積極的に予防してください。

【プロフィール】
福島県立医科大学卒業。東京医科歯科大学医学部付属病院、平塚市民病院循環器内科を経て、1979年から(財)心臓血管研究所付属病院
勤務。2005年より、同研究所所長。
大学卒業以後40年間、心臓カテーテル検査および治療に従事。虚血性心疾患における心臓カテーテル治療、冠動脈インターベンションに造詣が深い。